4.鼠径ヘルニアの手術
手術方法は、術式の特徴から、いくつかの種類に分類できます。
1. 修復法による分類
腹壁の弱くなってヘルニアが飛び出している部分を補強する方法の違いです。
補強する方法は
(1)飛び出しているヘルニアの袋を切り取るだけ(図6)
(図6)
(2)ヘルニアの穴に、周りの筋肉や腱膜を被せるように縫い付けて補強する方法(図7)
(図7)
(3)ヘルニアの穴を、メッシュで被って補強する方法(図8)
(図8)
に分かれます。
1)メッシュを使用しない方法
(1)や(2)は主に子どもや、若年者のヘルニアに行います。小児のヘルニアは、生まれつき腹膜が鼠径部から突出して袋状に残ってしまっていることが原因です。周りの組織は弱くなっていません。よって、小児のヘルニアでは、この袋を縛ってしまえば治ります。場合によって、ヘルニアの穴を縫い縮めることもあります。現在では、これを腹腔鏡で行う場合も増えてきました。
※当科では、Desarda法という成人に対するメッシュを使用しない方法も行っています。
2)メッシュを使用する方法
大人になると、鼠径ヘルニアは、腹壁の組織が弱くなることが原因で発症します。したがって、弱くなった部分をメッシュで補強する手術が行われます。弱くなった組織を無理に縫い合わせて補強するのではなく、メッシュという人工物で補強する方法で、修復部に緊張がかからず、術後の痛みや、再発率が激減しました。ただし、妊娠する可能性のある女性では、当科では、メッシュを使用していません。
2. アプローチ方法による分類
1)鼠径部切開法
ヘルニアの膨らんだところを切開し、ヘルニアの穴(ヘルニア門)を見つけて、補強する手術を行います。皮膚切開は、4-6cm程度ですが、ヘルニアの大きさ、手術の術式、患者さんの体型によって変わります。
ヘルニアの穴を補強するために、筋や腱膜をもちいるか、メッシュによる補強が行われます。
鼠径部切開法で、メッシュを使用する方法について
鼠径部切開法で、メッシュを用いて鼠径ヘルニア修復術を行うのは、現在の標準的な治療方法の一つです。メッシュを鼠径部のどこの部位において補強するのかで、術式が異なります。それぞれの部位に適したメッシュが開発されています。
それらを概説します。(図9)
(図9)
a)Lichtenstein法(図9)
最も単純で、世界的に最も多く行われている方法が、Lichtenstein法です。ヘルニアの穴の前面にメッシュをおき、鼠径部全体を補強する方法です。2018年に発表された鼠径ヘルニア治療のインターナショナルガイドラインでも、メッシュを用いた鼠径部切開法の標準的な治療方法として、推奨されています。我が国では、あまり多く行われてきませんでしたが、インターナショナルガイドラインが発表されてから、行う施設が増えてきました。当院の鼠径部切開法もこの方法です。
b)メッシュ・プラグ法(図9)
折りたたみ円錐形にしたプラグと呼ばれるメッシュを、ヘルニアの穴(ヘルニア門)に挿入し、補強する方法です。我が国に最も早く導入されたヘルニア用メッシュセットであり、簡単で理解しやすい術式だったことから、我が国では最も多く行われてきた術式です。再発症例や、ヘルニア門の小さな大腿ヘルニアなど、一部の症例に対しては、有効な術式です。
c)腹膜前修復法(図9)
ヘルニアの穴の背面、つまり、鼠径部の、筋肉の層と腹膜の間にメッシュを挿入して補強する方法です。腹膜の前にメッシュを置くので、腹膜前修復法とか、筋層背側修復術と言われることもあります。最近では、この方法もガイドラインで推奨されていますが、Lichtenstein法に比べてやや手技が難しい方法です。アプローチ法は異なりますが、腹腔鏡手術も腹膜前修復術の一つです。
2)腹腔鏡手術
鼠径ヘルニアに対する腹腔鏡手術は、鼠径部を切開せず、腹腔鏡で腹腔内を観察しながら、細い鉗子で手術する方法です。手術後の急性期の痛みだけでなく、慢性的な痛みも少ないことから、標準的な治療方法の一つとして、ガイドラインで推奨されています。腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術には、いくつかの種類があります。
a)TAPP法(図10
ポートを腹腔内に差し込み、腹腔鏡で腹腔内から、ヘルニアを修復する方法です。
腹腔鏡で観察するので、ヘルニアの状態が、良くわかります。周囲の組織との関係もよくわかるので、理解しやすく習得しやすい術式と考えられています。
(図10)
b)TEP法(図11)
TAPP法が、いったん腹腔内に腹腔鏡を挿入するのに対し、TEP法は、腹腔内には腹腔鏡を入れず、筋層と腹膜の間(壁と壁紙の間)に、腹腔鏡を挿入して手術を行う方法です(図)。この方法では、腹腔内に入らないので、腹腔内に癒着がある場合や、内臓脂肪が多く鼠径部が内臓で被われてしまうような場合に有利と考えられています。一方で、腹膜と筋層の間の手術となるので、見慣れない解剖で、理解しにくく、修得に時間がかかると言われています。
(図11)
TAPP法と、TEP法のどちらが優れた術式か
これは、難しいテーマで、昔から議論されてきました。結論から述べれば、慣れた外科医が行うのであれば、成績はどちらも変わりはありません。腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術は、インターナショナルガイドラインで標準的な治療方法として推奨されていますが、エキスパートが行うのであれば、と但し書きがついています。慣れていない外科医は、十分な指導のもとで手術をする必要があります。
c)LPEC法
小児の鼠径ヘルニアに対する術式です。腹腔鏡で腹腔内から鼠径部を観察しつつ、特殊な器具を用いて、体外から腹膜外腔に誘導した糸で、ヘルニア嚢を結紮する、という方法です。傷が小さく、整容性がよいことから、最近では若い成人女性に対しても適応が広がってきています。さらに、成人男性でもLPEC法で治癒する症例の報告があることが解明されてきており、メッシュを使用しない、低侵襲な術式として、今後も適応が広がる可能性があります。
d)ロボット手術
前立腺、胃、大腸など様々な領域に応用されているロボット手術ですが、海外では鼠径部ヘルニア修復術に対しても応用されています。我が国では、まだ、保険診療適応外の治療法で、自費診療として、行われています。使用する鉗子は通常の腹腔鏡より太いものが使用され、手術時間は同等です。その利点は、今後解明されていかなければなりませんが、現時点では腹腔鏡手術と成績は変わりありません。
