鼠径部ヘルニアについて
1.鼠径部ヘルニアについて
鼠径部ヘルニアとは
”ヘルニア”とは、臓器や器官が、本来ある場所からはみ出してしまう状態を指す医学用語です。
鼠径部とは、足の付け根の部分(お腹と足の境目の部分)を指します(図1)。
(図1)
鼠径部は、立ったときに、お腹の一番下になりますので、この部位に最も腹圧がかかります。この部位には、腹筋の隙間があって、この隙間の部分に常に力がかっていると、いずれこの部分が伸びて広がり、そこから内蔵がはみ出してしまいます。(図2)
図のように、筋肉の隙間から、内臓が飛び出すイメージです。これが鼠径ヘルニア(脱腸)です。飛び出すのは、大腸、小腸、脂肪、卵巣、子宮や膀胱など様々です(図2)。
(図2)
鼠径ヘルニアの発症は、乳幼児の頃と、初老期と、二つのピークがあります(図3)。
0-4歳の乳幼児に最も多く、子供の約20人に一人(5%)が罹患するといわれています。成人では70歳代が最多で、男性の4人に1人がヘルニアになると言われています。成人女性はその約1/10の割合です。
(図3)
鼠径ヘルニアの原因
鼠径ヘルニアの原因は、子供と大人では異なります。子供の場合は、生まれつき鼠径部から腹膜が袋状に飛び出して残っていることが原因となります(図4)。
これに対し、大人では、鼠径部に、常に腹圧がかかることで、鼠径部の弱い部分が広がってしまうことが原因になります(図2)。
立ち仕事の多い方、よく咳をする方、便秘などでよくいきむ方など、小さな日常的な腹圧がかかっているような方に、鼠径ヘルニアが多く見られます。
前立腺の病気に対する前立腺全摘術を受けた方は、一般男性より約6倍、鼠径部ヘルニアになりやすいとされています。これは、開腹手術でもロボット手術でも変わりません。
(図4)
鼠径部ヘルニアの分類
鼠径部のヘルニアには、大きく分けると、外鼠径ヘルニア(間接ヘルニア)、内鼠径ヘルニア(直接ヘルニア)、大腿ヘルニアの3つのヘルニアがあります(図5A)。
(図5A)
一般的に、鼠径ヘルニアという場合は、外鼠径ヘルニアと内鼠径ヘルニアを指し、鼠径部ヘルニアというばあいは、これに大腿ヘルニアを含みます。鼠径ヘルニアと大腿ヘルニアでは膨れる位置が違います(図5B)。
(図5B)
具体的には鼠径靱帯という足の付け根の筋の上が鼠径ヘルニア、下が大腿ヘルニアです。
1. 外鼠径ヘルニア
外鼠径ヘルニアは、鼠径部の外側から出るヘルニアで、最も多いタイプです。この部分は、精索や子宮円策などが、腹壁を貫く部分で、腹筋の重なりが少なく、生まれつき弱い部分です。子供のヘルニアはほとんどが外鼠径ヘルニアです。
2. 内鼠径ヘルニア
外鼠径ヘルニアより内側で、腹直筋より外側の部分から出るヘルニアで、ほとんどは、この部位の筋膜が弱くなって、ヘルニアが発生します。
3. 大腿ヘルニア
鼠径靱帯の下の、大腿血管の内側の隙間から飛び出すヘルニアです。女性に多く、嵌頓しやすいヘルニアとされています。
鼠径部ヘルニアの症状
鼠径ヘルニアの最も重要で、かつ確実な症状は、鼠径部の膨らみです。立つと膨らみ、寝ると元に戻るという症状が典型的です。膨らみとともに、違和感や痛み、腹部膨満感などの症状を伴う場合があります。
鼠径部が膨らんでいる、という症状に気づいたときには、外科を受診してください。ときには、痛くないのであれば、放置していても良い、といわれることがありますが、一度、専門の外科の受診をお勧めいたします。鼠径部の痛み、違和感だけで、膨らみがない場合は鼠径ヘルニアと診断できない事があります。
※ 嵌頓(カントン)について
嵌頓とは、ヘルニア門から脱出した内臓が、きつくはまり込んで戻らなくなった状態を指します。早いうちに戻してやれば内臓が傷つくことはありません。長い間、嵌頓したままの状態だと、脱出した内臓が戻らなくなり、血液の流れが悪くなり、最終的に壊死、穿孔を起こすことがあります。これは、ヘルニアで最悪の状態です。
嵌頓ヘルニアは痛いので、痛いときには無理せず、横になって体を休ませてください。これでヘルニアの脱出が元に戻るなら大丈夫ですが、元に戻らず、痛みもよくならないときは、病院に相談してください。
過去の報告では、鼠径ヘルニアの嵌頓の頻度は5%で、血流が悪くなる場合は0.3-10%とされていて、頻度はそれほど高くないので、むやみに恐れる必要はありません。
